produced by 平野宏文 Hirofumi Hirano a neurosurgeon, to communicate with his patients and friends

脳神経外科医 平野宏文のサイト

脳神経外科医 平野宏文のウェブサイトです. 医師として,また,個人として,私と関係ある人々とのコミニュケーションを図るための場所です.                            脳神経外科に関連する疾患についても記載していこうと思います.

新型コロナウイルス,SARS-CoV-2に対するワクチン 2(ワクチンとコロナウイルス など 4)
コロナウイルスRNAワクチンの構造

RNAワクチンはどういう作りになっているのでしょうか? DRUGBANK の Pfizer-BioNTech Covid-19 Vaccineを見ると
Pfizer-BioNTech COVID-19ワクチンは、BNT162b2とも呼ばれ、mRNAベースのワクチンで,Tozinameran トジナメランというヌクレオシド改変されたRNAワクチン nucleoside modified mRNA (modRNA)である.RNAはSARS-CoV-2のスパイクタンパクの完全長のタンパク配列をコードしているとのこと.ちょっと物足りない.

英語版のWikipediaの Pfizer-BioNTech COVID-19 vaccine と
Reverse Engineering the source code of the BioNTech/Pfizer SARS-CoV-2 Vaccine
を参考にすると
ワクチンのmodRNA配列は4,284ヌクレオチドの長さで,次のような構造をしているらしい.
1.ヒトアルファグロビンの配列に由来する非翻訳領域の5’キャップ構造.
これにより,細胞内の人のmRNAとして認識され,翻訳の始まり部分を示します.
2.シグナルペプチド(塩基55〜102).
シグナルペプチドとはS glycoprotein signal peptideで,できあがったタンパクが何処に行けば良いかを示しているタグのようなもので,今回は,細胞内から小胞体を経由して細胞外に出るようにそのタグには書かれていることになる.
3.プロリン置換部2カ所(K986PおよびV987P、「2P」と言われている).
これはスパイクタンパクの膜融合部分の変更である.今回のワクチンタンパクは細胞外に放出される様に設計されているので,スパイクタンパクの根元の部分を上手く変更しないとできたタンパクが壊れたり,細胞膜にくっついたりしてしまう.そこでがスパイクが安定した構造となり、膜への融合力が低下し、発現量を増加させ、中和抗体産生への刺激が強くなるように変更してある.この変更が有効であることはSARS-CoV-1 や MERS のスパイク構造の研究で2017年に分かったことらしい.
4.SARS-CoV-2の完全長スパイクタンパクのコドン最適化遺伝子(塩基103-3879). 元のウイルスはUAA終止コドンを使用し、ワクチンは2つのUGA終止コドンを使用している.
5.3’非翻訳領域(塩基3880〜4174):タンパク質発現とmRNAの安定性を高めるためにAESとmtRNR1から選択された組み合わせ.
AESとは”Amino-terminal enhancer of split”という遺伝子らしい.
mtRNR1はMitochondrially encoded 12S ribosomal RNA ,12S rRNAと略される.
6.ポリ(A)テール(30個のアデノシン残基、10ヌクレオチドのリンカー配列、および70個のアデノシン残基を含む)
以上

良くできているように感じた.
Amino-terminal enhancer of splitという遺伝子の働きは翻訳調節に関係しているということであるが,具体的にはよく分からなかった.
このmRNAワクチンはlipid nanoparticles(脂質ナノ粒子)の中に入れられて,筋肉注射される.lipid nanoparticlesは実験的にはよく使われてきたが,人への使用が認可されたのは2018年で,OnpattroというsiRNA drugで使用された.
脂質粒子は細胞間を流れながら,細胞の脂質膜と融合して,細胞内に入り込むと思われる.
そして,細胞質内でスパイクタンパクを作らせ,分泌タンパクとして,小胞体から細胞外に放出されることになる.細胞膜表面にスパイクタンパクを作らせるものではないので,既存の身体の細胞に対する交差免疫応答が生じる可能性は低いと思う.
通常コロナ肺炎は,肺の細胞にとりつき,まず,ここで増殖が起きるが,ファイザーのワクチンは,注射部位を中心に脂質ナノ粒子が流れていった先のどの細胞でもスパイクタンパクを作る事になる.新型コロナワクチンの接種を受けた女性では,マンモグラフィーでの診断に影響するほどリンパ節腫脹が見られるらしいが,ワクチンが分布した身体の細胞が様々な場所で抗原タンパクを作るからであろう.
不活化ワクチンや組み替えタンパクワクチンは,タンパクを接種するので,接種されるタンパク量はどの人にも一定である.一方,mRNAワクチンやDNAワクチンは核酸を接種し,それが各自の身体の中でタンパク抗原を作ることになる.タンパクの産生量は,接種された核酸ワクチンの量にある程度比例するだろうが,その産生量は多い人や少ない人がでてくる.タンパク産生量が少ない人でも十分な抗原量になるようにワクチンの量を設定すると,予想外に多くの抗原が短期間に産生されてしまう人が出るのではないかと予想する.
ファイザーとモデルナのワクチンは共に90%以上の有効性があるとされているが,これが事実であれば,対象となったコロナウイルスのスパイクタンパクに対して,高い抗原感作が生じていると考えられる.ところが,コロナウイルスの抗原であるスパイクタンパクが変異した場合,現在のmRNAワクチンで誘導された抗体は不完全な効き方になる可能性がある.不完全な効き方とは,ウイルスの感染力を失わせる事ができないにも拘わらず,ウイルスに結合する能力が残っている状態である.この時,抗体依存性免疫増強(Antibody-Dependent Enhancement:ADE)が生じる.抗体依存性免疫増強は現在では抗体依存性感染増強と言われている.菊池中央病院の中川義久先生の 抗体依存性免疫増強とは が分かりやすい.

人は徐々に多くのテクノロジーを手に入れ,それを利用するようになる.今回のワクチンの製造方法も新しいテクノロジーとして社会に定着していくようになると思う.しかし,ワクチンに限らず,その方法が良い方法で予想しなかったような負の面を持っていないかどうかが分かるには時間がかかるのも事実である.

コメント

コメントを書く
Hirofumi Hirano MD, PhD, Department of Neurosurgery